"I feel as if the world were coming to an end.
"I too, will go out and see if my heart feels lighter."

-世界の終わり来たかのように気分が悪いわ。
私も外に出たら気分が晴れるかしら。

-The Juniper Tree-

 
 

 むかしむかし、あるところにお金持ちの男がいました。
その男の人には、とても美しく、信心深い妻がいました。
二人の仲はとてもよかったのですが、何故か子供に恵まれることはありませんでした。
それを悲しんだ彼女は、毎日、昼と夜に神様に子供に恵まれますようにとお祈りを繰り返しました。
ある日、夫婦は仕事場からは少し離れた、大きな庭のある家へと引っ越します。
その家の庭には、大きな杜松の木が植えられていました。
その青々とした葉を見るうちに、なんだか本当に子供ができそうな気がしてきました。
七月になると、杜松の木には大きな実が実りました。
彼女はそれを取り、口にしました。それから数ヶ月後、二人の間に色白で血色のいい男の子が産まれました。
しかし、元より体力のあまり無かった彼女は、男の子を産んでまもなく死んでしまいました。
金持ちの男は妻の遺言の通り、彼女を杜松の木の下に埋めて、悲しみに明け暮れていました。

 数年がたち、男は二人目の妻をもらいました。
二人目の妻は一人目の妻よりも美しかったのですが、嫉妬深い女性でした。
しばらくして、この夫婦の間にも、一人の女の子が生まれ、マリーと名づけました。
彼女は自分の娘がかわいくて仕方がありませんでしたが、あまりにも可愛らしい幼い前妻の息子を見るたびに嫉妬で気が狂いそうでした。
この子は自分の子供の邪魔をして、父の残した遺産も独り占めするような気がしてなりませんでした。
悪い継母は父親が居ない間にその少年を毎日のように殴りつけ、自分の娘だけを可愛がるようになりました。
それを怖がった少年は、毎日父親が出て行くのを嫌がりました。
しかし父親は仕事を休むことができず、また母親はそんな彼を甘えたがっているだけだと言い叱りました。
母親の恐ろしいいじめは、マリーが大きくなるにつれてどんどん酷くなっていきました。
男の子は母親を怖がって、家にいる間は一日中びくびくして、気が気じゃありませんでした。

 そんな日々がつづき、杜松の木にまた大きな実が実ったころ。
母親は美味しそうなリンゴをたくさん持ってきました。
そこへマリーがやって来て、リンゴを欲しがりました。
母親は、大きな頑丈なふたを開けて、マリーにリンゴを一つ手渡しました。
「お母さん、お兄さんの分は?」
 ちょうどその時、息子が帰ってきたのです。
マリーはお兄さんに渡すためにリンゴを欲しがりましたが、母親は息子には自分から渡すと言いました。
「今もっているリンゴをあの子に渡そうとするならリンゴは食べさせないよ」
母親はそういって、お兄さんのところへ走ろうとするマリーの手からリンゴを奪いました。
そうして、母親はリンゴの入った大きな箱のふたを閉めました。
息子が家に入ってくるなり、母親は息子に話しかけました。
「お前、リンゴが欲しいかい」
「うん」
「じゃあ、箱から持っておいき。マリーの分も持っていけばいい」
そういって、母親は箱のほうを指差しました。
先に外に出て遊んでいるマリーのために、男の子は重たいふたを持ち上げて、箱の中をのぞきました。
その時です。
母親はいきなりその重いふたを閉じてしまったのです。
かわいそうに男の子の首は千切れて落ちて、リンゴの横へ転がっていました。

 いつまでたってもお兄さんがやってこないので、マリーは家の中に戻ってきました。
テーブルにリンゴを二つ並べて白い顔で席についているお兄さんを見つけて、マリーは話しかけました。
「私外で待ってたのになんで外に出てこないの?」
お兄さんは何も答えません。
マリーはお兄さんが自分に気付いてないと思って、お兄さんの体を揺すりました。
すると、お兄さんの首がテーブルに落ちて転がりました。
マリーは大声を上げて台所の母親のところへ走りました。
 話を聞いた母親はマリーをしかりつけました。
「だけどやってしまったことは、しょうがないね。お兄ちゃんはシチューにしてしまおう」
母親は男の子を運んで、シチューの肉にしてしまいました。
マリーは、そばで泣きじゃくっていた。涙が鍋の中へ入り、シチューには塩はいりませんでした。

 父親が帰ってきて、いつもいるはずの息子がいないことに首をかしげて母親に言いました。
「私の息子はどこにいるんだい?」
母親はマリーの口を押えて、何事もないかのように言いました。
「あの子は夕飯の準備を手伝わなかったから裏口に立たせてあるわよ」
「そうか、もう少ししたら呼んでやらないとな。
 このシチューも美味いからあいつに食わせてやらないと」
父親は特に不思議に思わずにうなづきました。
「あの子はおしおきなんだから、シチューは全部食べちゃって良いわよ」
マリーは、ただ涙を流すだけで、シチューを食べようとはしませんでした。

 父親が全部シチューをたいらげた後、マリーは骨を集めて宝物の絹の布に包んで杜松の木の下に埋めました。
その姿を見て父親は母親に言いました。
「マリーはやさしい子だね。食べてしまった鶏のことをああやって哀れんであげている」
母親は笑って、マリーを追って杜松の木の元へと行きました。

 次の日、父親が出かける前に母親に聞きました。
「せがれはどうした」
「まだ寝てるわよ。昨日のおしおきで反省しているみたいだから」
父親はすこしさびしい思いをしましたが、あきらめて出かけることにしました。

 マリーは杜松の木に骨を埋めてからは涙は流さなくなりました。
朝、お祈りをしようと杜松の木に向かったマリーは、杜松の木に綺麗な鳥がいるのを見つけました。
その鳥は美しい声で歌います。

my mother she killed me,
my father he ate me,
my sister, little Marlinchen,
gathered together all my bones,
tied them in a silken handkerchief,
laid them beneath the juniper tree,
kywitt, kywitt, what a beautiful bird am I.
その歌声を聴いて、マリーは幸せな気分になりました。
しかし、マリーは少し気になって、小鳥に聞きます。
「あなたは何故そんな歌を歌っているの?」
黄金の羽根を持つ美しい鳥はそれには答えないで、飛び去っていきました。

 美しい鳥は街の広場の中央の木に止まり、歌い出しました。

my mother she killed me,
my father he ate me,
my sister, little Marlinchen,
gathered together all my bones,
tied them in a silken handkerchief,
laid them beneath the juniper tree,
kywitt, kywitt, what a beautiful bird am I.
その歌声に、広場のみんなは足をとめて木を見上げた。
「なんて美しい歌声なんだ。もう一度歌ってくれないか」
言われて鳥はまた歌いだしました。
そうして、幸福を呼ぶ鳥は、広場の人々に何度も歌いました。
広場を通りかかった父親は、その鳥の歌声を聴き、懐かしい気分になりました。
「その鳥は誰の鳥だい?」
「今朝この広場に来た鳥なんだ。美しい歌声だろう」
父親は満足して、その場を後にしました。
 鳥は夜になるまで広場で歌っていましたが、人々はその歌声に感動しただけで、誰もその歌の言葉を気にする人はいませんでした。
そうして、黄金の鳥はどこかへ飛び去っていきました。

※途中に挿入される英語の詩は原文より引用しています。
引用元:The Juniper-Tree    (Grimm's Fairy Tales)


-Postscript-
杜松の木、明確なテーマが私には見えませんでした。
ですので、「父親」に焦点を当ててそこからの視点で構築しなおし、それを再び童話的な神の視点に直しました。
結局どんな変化にも気づかなかった父、そして表面しか見ない社会の風刺になってしまったのですが。
この物語は2パターン作ったんです。
この先、原典に添った形で息子が復活するバージョンと、このバージョン。
復活しないバージョンのほうが、言いたいことが明確に伝わると思ったのでこっちにしました。