世界は決して交わらなくて、人間関係も決して交わることは無くて。
全てが平行やねじれの関係で構成されている。
そんな中でも僕たちは常に相手と触れ合っていると錯覚しながら生きていかないといけない。
きっと僕の勘違いだったんだ。
そう、あの時のことも。

Cross-Cross

 目が覚めたときから嫌な予感はしてた。
窓の外が妙にまぶしい。
いくら休日だからって寝すぎた。そう思った。
カーテンを開けると、やはり目の前に太陽。
薄明るくい空を見上げて、そういえば今日は掃除をしようとしてたんだと今日の予定を思い出す。
胸中で舌打ちをして、自分の部屋を見返す。
散乱したペットボトルと、大量の小説、そしてカップ麺の残骸。
そんなものがあるはずが、あたりを見渡すと何も無い。
首をかしげながら、再び振り返る。
明らかにおかしい。さっきよりも外が明るい。
窓が西向きの為に他の似たような条件の部屋よりも格段に安かったから覚えている。
この窓は、西側だ。そして、太陽は今西から昇ろうとしている。
「これはね、かの伝説の魔女ディヌスが使ったとされる箒なんですよ」
突然、背後から女性の優しい声が聞こえる。
驚いて振り向くと、背中の辺りまで伸ばした鮮やかな水色の髪をした女性が古びたデッキブラシを大事そうに持ち、
その彼女の腰ほどの身長の、燃えるように赤い髪の少女に話しかけていた。
しかし、こうやって実物を見るとあからさまに妙な色に感じるのは正常だと思う。
少女はその特徴的過ぎる色の短い髪を耳の上の辺りで結び、その髪と一緒に元気そうに跳ねている。
「そうなんだ!すごいねフィリーカルタラーナ!」
誰だ。フィなんとかって。
思いっきり叫びだしたいのに、何故か声帯を奪われたかのように僕は立ち尽くす。
「そうなのよ、高かったのよ」
そういって、フィなんとか(おそらく彼女の人名だろう)は優雅に笑う。
俗に言うところの深窓の令嬢って奴に見えなくも無いが、その水色に輝く髪の所為で完全に現実味が消えている。
それどころかタチの悪い舞台演技に見えてしまう。
「それじゃあ、この箒で部屋を掃除しましょう」
「はーい」
フィなんとかはそう提案すると、少女は右手を上げながらぴょんぴょん飛び跳ねる。
かわいらしいのだが、同時に何か妙なあざとさを感じるのは気のせいだろうか。
少女はフィリー…もうよく聞き取れなかったのでフィリーと勝手に命名しておくが…からデッキブラシを受け取ると、一気に地面にたたきつけた。
みしみしと嫌な音を立ててそれは少ししなる。
そのまま少女は僕の方へとデッキブラシを地面にこすりつけながら突進してきた。
この部屋はフローリングだ。デッキブラシなんてしたら傷だらけになる。
突進してくる少女を見ても、僕にはそんなことしか考え付かなかった。
もちろん、彼女は僕に気付くことなく、そのまま僕を轢いてしまうのだが。
そんな単純な推理すらできないほど、僕の脳内は混乱していた。
とりあえず一見すれば天地がひっくり返っても動じなさそうなフィリーが何か叫ぶのを見ただけでも、良かったとしよう。

 目を開くといきなり水色と真紅の壮絶なコントラストが視界に入る。
まさかとは思うが、どうやら一瞬、あるいはそれ以上の間気絶していたらしい。
たかだかデッキブラシを持った少女に轢かれただけで、である。
「大丈夫?」
少女が目を覗き込むようにして訊いてくる。
近すぎる。多分今なら彼女にフルスイングで頭突きもできるだろう。
「申し訳ございません。ほら、クラフェロスカディスメリアディートティンクルも…」
だから誰なんだよ。クラなんとかって。クララ?
とりあえず、カディスに頭を押さえつけられてクララ(勝手に命名)が頭を下げた。
「申し訳ありません、ご主人さま」
「だからなんなんですかあなたは」
「クラフェロスカディスメリアディートティンクル」
訊かれて、少女は屈託の無い笑顔を浮かべて即答した。
そこじゃなくて。そう言うより早く、フィリーが僕の顔を覗き込んで何かぶつぶつと唱える。
二人並んで近すぎる。視界には彼女たち二人以外入らないほどに。
「キュア」
最後にカディスがそう締めると、体に何か妙な感覚を覚える。
「傷を治す魔法か何かか?」
僕の質問に、にこりと聖女のような微笑を湛えて一言、
「いえ、金縛りの魔法です」
そう告げて僕から顔を離した。
それにつられてクララも彼女のあとを追う。
言われた意味が理解できずに、まずは空腹を覚えたので食事を準備しようと立ち上がろうとする。
動かない。
そこで初めて、自分が金縛りをかけられたことを理解する。
キュアは金縛りの呪文、と今しがた脳内に作った僕的呪文辞典に書き込み、なんとかしようともがき続けた。

 フィリーが人差し指を立てて先生のような口調でクララに話す。
「先ほどのように、金縛りの呪文は徐々に効力を発揮するものが多いので、呪文を唱えてから数秒は様子を見るようにしましょう」
「はーい」
クララは元気に、というよりもただ大きな声で返事をしようということしか頭に無いかのように大きな声で無邪気に答える。
「それではですね…おや?」
急に、いや、ようやく気付いたかのように。カディスがこちらへと視線を向ける。
「貴方、誰でしょうか…?」
「私も知らない」
クララもきょとんとして僕を見つめる。今更きかれても困る。
「…とりあえず…」
フィリーは瞳を閉じてぶつぶつと何かを呟く。
そして瞳を見開いて、僕に向かって明確に告げる。
「デス」
あぁ、きっとこの呪文は僕を殺す呪文ではないんだろうなぁ。
白む視界に気付かない振りをしながら、僕はそう自分に言い聞かせた。

 なんとなく腕時計に目を向ける。
ありえない。マッハで着替えないと学校に間に合わない時間だ。
そこまで考えて、僕は首をかしげた。
じゃあ、今僕が着てる制服はなんだ?なんで僕はもう腕時計つけてるんだ?
辺りを見渡す。
無意味に綺麗な部屋。
急いで部屋を出て、玄関に向かう。
背後から声が聞こえた。
「いってらっしゃいませ」
その声に振り返ると、僕の目には...
 こうして、世界は交差する。


-Postscript-
前フリでマジメっぽい内容にすると見せかけてタイトルバックの後は一気に逆方向に加速する。
わざわざそんな演出のためにロゴマークをつくりました。成功してたら幸いです。
左側の十字架に時間がかかったのですが。
だれか私に絵心をください。
あと、書き方ですが、色々と意図的に崩しています。
可能な限りT-Akfっぽくないネタにしようとしたのに、T-Akfっぽい言い回しがいくつか。
俗に言う萌えワードは言わないようにいかにソレっぽくするかも気を配ったけど。
とりあえずココで言ってみよう。
うぐぅ。
フォロー無し。